モバイル端末としての Firefox OS
Firefox OS Advent Calendar 2015 の記事です。 今後の Firefox OS について思うこと、期待することを書いてみたいと思います。
Mozilla が Firefox OS をキャリア経由での販売を行わない旨の発表を行ったことは記憶に新しいと思います。 このことの真意はまだちょっと測りかねていますが、単にキャリアの独自サービスや、メーカ毎のハードウエアポーティングに開発リソースを割かないというだけで、Androidのようにそれぞれキャリアやメーカが自前で開発をすれば良いという意味と捉えるのが普通の解釈かと思いました。
もしくは Microsoft が Windows 10 で類似の発表を行ったように、キャリアやメーカを介さず直接アップデートを提供する方式(Apple方式かと)に移行するということかもしれません。 おそらく前者のAndroid方式の方かと思いますが。。
Firefox OS の考察
昨今のクラウドサービスはその多くがWeb系技術を用いたものですのでそれを使うクライアントにはブラウザさえあればよく、シンクライアントとまでは行かないまでもそれに近い思想でブラウザベースのモバイル端末はとてもシンプルであり、余計なシステムリソースを使わない点で合理的であると言えます。
パワーがなくてもよいので低スペックな端末を安く入手することができることにつながります。
アプリにはweb型だけではなくインストール型もあり、Android や iOS のユーザから見ても親しみやすい仕組みになっています。Java屋さんや C++屋さん よりもHTMLの有識者は人口が多いため、アプリ開発者の間口が広く、開発者人口の増加が期待されています。
Firefox OS はデバイスを操作するための API が多数用意されているので従来プログラマがC,C++を駆使して書いていた処理を JavaScript で書くことができます。 C,C++が完全に置き換わる程、自由度が高いわけではなく凝ったことをやろうと思ったらそれなりに苦労することにはなりますが、そこそこ一般的なニーズに応える分には充実しています。 Firefox OS は低廉・軽量派のプラットフォームであり、web標準にマッチした"筋の良い"プラットフォームなので透明度が極めて高い点が訴求力だと言えます。
まとめると「ロースペック端末を安く買えてそこそこ使える」が特徴だと思います。
Firefox OS の弱点とユーザニーズ
日本の場合モバイル端末≒スマホ・タブレットであり、その用途はゲームとSNSが大半の模様です。
SNS は LINE や Facebook 等、もちろん Firefox OS でも利用可能です。
しかしながらゲームが大きな弱点になり得ます。
パズドラやモンスト、白猫プロジェクトなど、最近の人気ゲームはグラフィカルで処理も重いのでハイスペック端末の方がヌルサクに遊べます。私だけかもしれませんがスマホ購入を検討する時はCPUやメモリ量をどうしても気にしてしまいます。販売側も同様と見えて、カタログや広告には高性能をアピールしたものが多く見られます。 高性能高価格、低性能低価格 のように性能と価格で差別化したラインナップになっています。
Firefox OS の場合、Unity のアプリを動かすことも可能にはなるのでしょうが、元々のコンセプトから考えて端末にパワーがありません。
webサービスを前提にするFirefox OS の場合、端末側のスペックはそれほど意味がない事が多いのが一因なのでしょう。
Fx0 は実は十分に高性能なのですが、Snapdragon 400、1280×720、RAM1.5GB と、昨今のスマホと比べるとミドルレンジの部類です。Firefox OS であるからこそ、サクサク快適に使えているんでしょうね。
端末性能の微妙さと市場のシェアが低い事からだと思いますが、メジャータイトルは移植されていません。マーケットプレイスを見てもビッグなプロダクトは少なめです。開発費を投資できない現実があるのだと思います。
もともと Firefox OS は端末側のスペックをフルに使い倒すオプティマイズや、プロプライエタリな巨大アプリの開発を行うコンセプトではありませんでした。追随しようとしているようですがまだまだ途上にあるのが現実です。
現状、Firefox OS の弱点は「ハイスペック端末上でモダンでビッグなメジャータイトルが遊べない」ところにあり、その傾向は今後も続くと見る事ができます。
使われ方
「カメラで写真を撮ってSNSに投稿」「ニュース見る」「メール・メッセンジャー」のようなユースケースだけならもはや OS は出る幕もないので低廉なものが望ましいです。安価な Firefox OS 端末でなんの問題もありません。 ゲームをしない人はたくさんいるのでそういうライトユーザにとっては十分にメリットがあるでしょう。
でも、ビジネス的に数字を取れるのは課金ゲームです。 ゲームを実装する開発者にとって、自由度は必要です。別にオープンなweb仕様を求めておらずオレオレプロダクトでいいんです。どうせプロプライエタリですし。 Hello World が簡単に作れますよ、ではダメで、ビッグプロジェクトを組んで巨大なプロダクトが動作するプラットフォームでなければならないです。
ゲームをしないようなライトユーザなのに、なぜでしょうか、日本人は iPhone のような高いものを購入するのですよね。 大は小を兼ねますのでお金を出せる人には高性能の方が有利なのだと思います。
進化していく方向
電卓や電子辞書は今やスマホの一機能です。 書籍もスマホに取り込まれました。 ウォークマンも同様です。 携帯電話に出来る事はスマホでほぼ全部出来ます。 これまで持ち歩いていた電子デバイスのほぼ全てがスマホに吸収されつくしています。 持ち歩かなければならないデバイスを統合して軽くできることはユーザメリットが大きいです。
現在、スマホはPCに代わるものと認知されつつあり、スマホが向かう進化の方向は高機能高性能化が既定路線です。 そうやって従来PCの担ってきた機能までもがスマホへ取り込まれて行くことになります。
ハードウエアの高性能化とそれに追随できる OS とアプリによって、様々な機器の集合体になっているのが今のスマホであり、ウェアラブルをも巻き込んだハブになっています。
こういう方向で進化していこうとしている以上、スマホを舞台にして Firefox OS が勝ち残る未来はあんまり見えてこないところです。 むしろ得意分野に特化した方面に選択・集中するほうが望ましいのではないかと思います。
今後の期待
まだまだ Firefox OS には大きな期待を持っています。
特に組み込みソフトの分野です。 組み込みソフトでは軽量OSが必要なので Linux を使う事が多いのですが Yocto ベースに環境を作ってもそこにはろくなアプリフレームワークがありません。BSPはあってもアプリを動くようにするのが一苦労なのです。
Gonk の足回りを強化して Yocto Project と連携するなどして、多くのデバイスに容易にポーティングできる仕組みになってもらえると組み込み開発の生産性が激変することになるでしょう。 いまは Open Web Board や Chirimen のような限られたボード上でしか動かないと思いますが、 connected device に注力するとの話もあるようですし NVidia や TI や Renesas など多様なデバイスに簡単にポーティングできるようになれば組み込みソフトOSの未来を切り拓けるのではないでしょうか。
組み込みソフトは高機能高性能なアプリを載せませんし、素早くリリースする事を求められる、といった特徴があります。最近はIoTの一部としてweb技術を前提とする機器も多くなっています。量産する事も多いので低廉なハードウエアで動く事が前提です。 ブラウザベースなのに組み込み?って意外性はありますが、こうした特徴は実に Firefox OS にフィットしていると考えており今後の進化に期待したいところです。